江戸の祭りに神輿は欠かせませんが、かつては山車(だし)が大活躍の時代があり、大きな獅子頭も登場しました。氏子各町で天王祭を見守り続けている町の至宝をご紹介いたします。
三河島山車人形
三河島地区では、幕末から明治にかけて、「壱番 熊坂長範(くまさかちょうはん)」・「弐番 素盞雄命(すさのおのみこと)」・「参番 稲田姫(いなだひめ)」の3体の山車人形が曳き廻されていました。土地に伝わる民謡「小室節」にのせて、遠くは上野広小路まで巡行したといいます。
市街環境の変化に伴い、現存する稲田姫・熊坂長範の2体の人形(ともに荒川区指定有形民俗文化財)も山車の上に載ることはなくなりましたが、地域の人々の手によって大切に受け継がれるこれらの人形は、まだまだ出番を失ったわけではありません。熊坂長範は荒川中央町会、稲田姫は荒川四丁目西仲睦会・荒川文化会・大西町会・荒川宮地町会の氏子中により、天王祭において毎年町内お神酒所に飾られ、3年に一度の御神幸祭(本まつり)では、稲田姫が境内の神楽殿に飾られています。
荒川区指定有形民俗文化財
三河島山車人形・熊坂長範荒川中央町会(三河島地区)蔵
眼光鋭く見得の決まった大男。平安時代の伝説的な盗賊・熊坂長範は、最期は牛若丸に討ち取られたそうですが、往時の人々には義賊の英雄として親しまれていました。歌舞伎や浮世絵、各地の山車人形にも登場し、三河島では地域の魔除け厄除けの守護神として、明治の頃から除災招福のにらみをきかせてきました。
荒川区指定有形民俗文化財
三河島山車人形・稲田姫荒川四丁目西仲睦会・荒川文化会
大西町会・荒川宮地町会(三河島地区)蔵
御祭神スサノオノミコトは荒れ狂う大蛇から稲田姫を救い出し、御結婚され多くの御子神を授かり幸せな御家庭を築かれました。3年に一度の御神幸祭(本まつり)では、境内の神楽殿に飾られます。
獅子頭
荒川区指定有形民俗文化財
獅子頭一対(文政九年六月吉日銘)通新町睦(南千住地区)蔵
江戸時代の制作で、横幅1.5m超、奥行1m超、尾の長さ1.8m超と非常に大きな獅子頭です。江戸で起きた様々な出来事を記した『武江年表』には、当社天王祭で「大きな獅子頭を作り飾った」という記事が見られます。江戸の祭りでは獅子頭が行列に入り町を練り歩くこともあり、もしかしたらこの大きな獅子頭も、両側から抱えられて町へ繰り出したかもしれません。